心療内科医のひとりごと

専門用語を使わない心療内科のはなし


理想と現実

昨年も本当に多くの患者さんがお見えになりました。
苦しく、辛く、医学の助けで少しでも楽になりたいと、本当に切実な悩みを訴えられました。

抱えていらっしゃる苦しみや悩みは、驚くほど多様で、人としての存在の奥深くに関わっているように思われすが、ある視点から見ると共通項も見えてきます。
今日は、この事について少し述べてみたいと思います。

〈理想と現実〉と言った視点です。

厳しい上司の下で、働く意欲をなくして、会社に行けなくなってしまったAさんには、理解のある上司の下で、気持ちよく働きたいという理想がありました、しかし現実の上司は、恐ろしく厳しいと言う現実があります。
Aさんはこの隔たりの前で立ちすくんでしまったのです。

同期のトップをきって管理職に昇進したBさん、小さい失敗が原因で自信をなくし、自分には管理職の能力が無い、会社に迷惑をかけていると思いこみ落ち込んでしまいました。
管理職になっても失敗なく業務をこなせるという、理想の自分の姿と、失敗をしてしまった現実の自分との狭間に落ち込んでしまいました。

大好きだった彼に振られてしまったCさん、彼に心の底から愛されている幸せな自分の理想と、振られてしまった現実の自分の落差に悩み、何もできなくなってしまいました。

優秀な音楽家のDさん、問題なく弾けるはずのパッセージに詰まってしまってから、指が思うように回らず、練習するのさえ嫌になりました。
一流の音楽家であったはずの自分が犯した間違いに、自分を見失ってしまいました。

人気絶頂の美人女優Eさん、ある日みつけた眼尻の皺に、私なんて何の価値もない女だと思うようになり、外出もできなくなりました。

小学校の頃から秀才の誉れが高かったFさん、天下の難関大学に合格し、同期のトップを走っていましたが、何と戯れに受けた外交官試験に落ちてから、魂が抜けたように感じられていました。

幸福と不幸とは背中合わせ、何時潮目が変わるか判りません。
美人も秀才も上には上があり、下には下がある、他人と比べる事に意味はありません、人は持って生まれた遺伝子に努力を加えて生きていくのです。
良いことに終わりがあるように、悪いことにも終わりがあります。
冬の後には春が来て、夜は必ず終わり朝が来るのです、夜明け前の闇が一番深いと言うではありませんか。

必要な薬を服用して自分を取り戻し、自分がどのような理想と現実のギャップに落ち込んでしまったかが見えれば、病状は良くなっていきます。

私の仕事は、患者さんとお話を重ねることで、患者さんが自らの状態を把握して、どこから落ち込んでしまったのかを理解されるお手伝いに過ぎないのです。

今年が昨年よりも良い年でありますように!



About Me

こんにちは、腎臓・血圧内科を専門として医師の仕事を始めました。腎臓がとても悪くなると血液透析をしないと、生きていけません。血液透析とは機械を使って1回に3から4時間、週に3回から4回、血液をきれいにする治療です。これが始まると殆どすべての患者さんが、うつ病のような状態になられます。患者さんの心に触れないといけないと思い、精神科の勉強も始めました。心療内科・内科を開業して13年目になります。難しい専門用語をできるだけ使わずに、心療内科のお話をして行きたいと思います。

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